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大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)4735号 判決 1983年9月09日

大阪市<以下省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

大深忠延

斎藤護

東京都中央区<以下省略>

被告

岩崎貴金属株式会社

右代表者代表取締役

Y1

大阪市<以下省略>

被告

Y1

右両名訴訟代理人弁護士

木村眞敏

大塚忠重

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金七六万円およびこれに対する被告会社については昭和五七年六月二八日から、被告Y1については同年七月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告会社は、金地金の販売等を目的として設立された会社であり、被告Y1は、その代表取締役である。

2  原告は、昭和五七年六月一一日ころ被告会社とプラチナ地金売買委託取引契約を締結し、同日から同月一四日までの間、被告会社に対し右取引の保証金および手数料として金五一万円を交付した。(これを本件取引という。)

3  しかしながら、本件取引は、以下のとおり被告が保証金および手数料名下に違法に全員を利得する目的でなされたものであり、被告の本件取引の勧誘および本件取引自体が不法行為を構成する。

(一) 被告会社が行なっている取引は、一見「先物取引」のようにも見られるが、その実体は先物取引ではなく、被告会社が恣に操作したプラチナ価格をさも真実の相場のように見せかけているか、さもなくば有力な金地金流通業者(田中貴金属株式会社)が発表する店頭価格を利用して賭博に類する行為をなしているものである。

(二) 被告会社は、原告に対し本件取引の勧誘を行った際、日本においてはプラチナ地金の公設市場がないこと、プラチナ地金の価格は国際的な政治、経済状勢によって変動し、その正確な予測が不可能であるためプラチナ地金の先物類似取引が投機性の高い危険なものであること、将来保証金の追加をし、あるいは清算をして損害の支払をする等の義務が生じること等の本件取引の仕組等につき説明を一切行なわず、営業部員を通じて「プラチナは現金と同じでいつでも換金できる、プラチナには税金がかからない、今五〇万円出せば年末には六〇万円にして持ってきてあげる。」等の虚偽の事実を申述した。

(三) そして、被告会社の営業部員は、原告を被告会社の営業所まで連れて行き、原告が郵政省の簡易保険および日本生命外一社に生命保険に加入していることを知ると、原告に対し、委任状数通に持参の印鑑を無理に押捺させ、さらに被告の営業部員であるAは原告を車で送ると称して原告方に上り込み、保険証書等三通を持ち帰り、翌一一日保険契約を解約して金三二万八二〇〇円を、簡易保険を解約して金一四万四〇〇〇円を各引出し、その後も右訴外人が原告方に来て金を出すよう迫り、同月一四日原告の生活費であった金三万七八〇〇円を無理矢理交付させた。

4  被告Y1は、被告会社の代表取締役として、原告に損害を発生させることを知りながら本件取引を企画して推進させたものであるから、民法七一九条により被告会社とともに原告の蒙った損害を賠償する責任がある。

5  損害 合計金七六万円

(一) 金五一万円

原告は、被告会社に対し昭和五七年六月一一日から一四日までの間、保証金名下に金五〇万円を、手数料名下に金一万円を交付したものであり、右合計額金七六万円が損害となる。

(二) 慰藉料 金二〇万円

原告は、被告会社の営業部員Aらから執拗で強引な勧誘を受け、さらには被告会社に連れて行かれ、無理矢理委任状等を作成させられるなどして前記欺まん的かつ公序良俗に反する取引に誘い込まれ、そのため、警察および弁護士へ相談するなどしてその事後処理に苦慮し、これにより多大の精神的苦痛を受けたものであり、これを慰藉するものとしては金二〇万円が相当である。

(三) 弁護士費用 金五万円

6  よって、原告は、被告らに対し、不法行為に基づき各自金七六万円およびこれに対する本訴状送達の日(被告会社については昭和五七年六月二八日、原告岩崎につき同年七月三日)から支払ずみまで民訴所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2記載の事実は認める。

2  同3(一)記載の事実は争う。

3  同3(二)記載の事実は否認する。

4  同3(三)記載の事実のうち原告主張の日に被告会社が原告から委任状数通および保険証書三通の交付を受けたこと、原告主張の日に保険契約を解約して合計金四七万二二〇〇円の交付を受けたこと、原告主張の日に金三万七八〇〇円の交付を受けたことは認めるが、その余は否認する。

被告会社は、昭和五七年六月一〇日原告とプラチナ地金期限付取引を締結し原告は、同月一四日プラチナ五キログラムの買注文をなし、その保証金の内金として被告会社に金五一万円を交付したが、残余の保証金を用意できなかったので、同日売仕切られたものであり、右の手数料は金五〇万円であるので、金一万円のみは原告に返還されるべき金員である。

三  抗弁(被告ら)

被告らは、昭和五八年六月一三日原告の本訴請求債権金七六万円および本訴状送達の日である昭和五七年六月二八日(但し、被告会社についての送達日)から右同日までの年五分の割合による遅延損害金三万六七五一円を弁済した。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は認める。

第三証拠

本件記録中の書証目録および証人等目録引用

理由

一  請求原因1、2記載の事実はいずれも当事者間に争いがない。

同3(三)記載の事実のうち、原告主張の日に被告会社が原告から、委任状数通および保険証書三通の交付を受け、保険契約を解約して合計金四七万二二〇〇円の交付を受け、また、金三万七八〇〇円の交付を受けたことはいずれも当事者間に争いがない。

右争いのない事実に、成立に争いのない甲第一ないし第一〇号証、甲第一八ないし二三号証、乙第一、二号証、証人Bの証言、原告本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、請求原因を認めることができる。

二  抗弁事実は当事者間に争いがない。

三  以上によれば、原告の被告らに対する本件請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 園田小次郎)

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